注文を告げて視線を元に戻すと、樹と目が合った。
「今の会社、長距離の仕事が減っちゃってさ」
コーヒーカップを片手に、彼はさらりと言う。
「よそに変わったほうがいいかなと思って、募集を見てただけ」
「そっか……。いいの、あった?」
「ねーしなー」
「ふうん」
そうなんだよね。最近は樹の仕事が減ってるから、わたしたちはいっぱい会えるんだった。
脳天気なわたしはそんなこと忘れて喜んでたけど、樹はやっぱ困ってるんだ。
「けど、今の会社がいいな」
ポツンとわたしは言った。
だって……。
「真琴の学校に近いから、すぐ会えるもんな?」
樹の目がわたしをのぞき込む。…う、バレバレだし。
「可愛いの」
子どもっぽい考えをバカにされるかと思ったのに、樹は笑って、わたしのおでこをちょこんとついた。



