大きな病院を経営している両親は、跡取り息子によるDV被害を社会的には公表しないことを条件に、息子を説得して離婚届にハンコを押させたって話だった。
「それでも別れられて、マジよかった」
樹がそうつぶやいた。
ホントに……そうだ。
「早く忘れちゃえ」
香美さんも言った。
すでに二人は別居していて、
美里さんは香美さんの家に、この家に同居していた彼女のお母さんと妹さんは親戚のところに、それぞれ身を寄せているらしい。
今夜は元夫が当直なので、その間に荷物を運び出す段取りになっていて、祐二さんと香美さんは、もともとここへ手伝いに来ることになっていたんだって。
「待ち伏せてたんだ、あいつ」
香美さんが美里さんの肩を抱いた
両親に押し切られただけで、本人は別れたくなんかなかったんだろう……。
