大淀家のワゴン車が見覚えのある街並みを走る頃、辺りはもう暗くなっていた。
大淀の家から遠い順に、樹がひとりずつ家まで送ってくれることになって
中村、サホリンの次がわたしで、もうすぐ車を降りなきゃならない。
「あのね、最後まで乗ってったらダメ?」
運転席の樹に小さな声で訊くと、彼はキョトンとして答えた。
「いや、大淀に車返すから、電車で送んなきゃならないし……なんで?」
大淀の家から樹のアパートまでは歩いて行ける距離なのに、もしわたしを送るとなると、わざわざ電車に乗って戻らなきゃならない。
いや、そんなことさせるつもりはないよ。
樹、体弱ってるのに。
「樹の部屋に泊まって、看病してあげる」
わたしがニコッとそう宣言したら、樹もニッコリ微笑んで「ダ~メ」と言った。



