そう訊いたとき彼の携帯が鳴り 「悪い。会社だ」 と樹は電話に出た。 電波が悪いのか何度も「もしもし」って繰り返していて、それからあきらめたように席を立った。 「外でかけ直してくる。ちょっといいか?」 と樹は、わたしにではなく美里さんに訊いた。 「うん」 小さく彼女がうなずく。 「すぐ戻るから」 入口へ向かう樹の背中から視線を戻して、美里さんがわたしを見て笑った。 「普通こういう状況で置いてかないよね?」 優しい笑顔―― 誰かに似てるな、って思った。