10分くらい経って、髪がある程度乾いたショウがリビングに戻ってきた。
ふわふわの髪があっちこっちに跳ねていて、子どもっぽさを感じさせる。


「…跳ねてる、髪。」

「あ、ホントだ。」


そう言ってショウは手で大雑把に髪を直した。
そして夢の方へくるんと向き直る。


「申し訳ないんだけどお金は一銭たりとも…。」

「分かってる。あんたはご飯と洗濯、掃除してくれれば文句言わない。」

「じゃあ…行こっか。」

「あんた一人で行きなさいよ。」

「せっかくだからどういうものが好きなのか知りたい。
だから一緒に行こうよ。」

「…別に何だって食べるよ。」


『何だって好きだよ』とは言えない。
『好き』は言わない。
それはいつの頃からか夢が徹底して守ってきたルールだった。


「何が好きなのか知りたいって言ってるの、俺は。」


…どうやら変なところは頑固らしい。
夢は諦めて頷いた。


「…分かった。行くよ。」

「うん。ありがとう。」


自分にその笑顔が向けられたと感じるまでに7秒を要した。