致死量カカオ


……え?なんですか?


廊下を走っていく女の後姿を見つめながらさっき以上に理解できない状況に、あいた口が塞がらねえ。

今なら虫も俺の口に入り放題なんじゃないか。


「いやーあれは吐いたね」


呆気にとられる俺の隣で、ドアから顔を出して女の後ろを見つめた男がボソッとつぶやいた。


「あ?」


振り返ると男は、俺の顔を見てにっと笑う。
誰だお前。


俺の身長と同じくらいで、視線がぶつかると男は何も気にしないそぶりで「千恵子様子見てきてあげたら?死んでるかもよ」とそばにいておろおろしている女に声をかける。


……死んでるって何だよ。
俺が殺したみたいじゃねえか。


「俺、昭平っていうんだけど、高城くんだよね?」

「そうだけど?」


あまりにもにやりと笑う男、昭平とやらの顔にちょっと苛立ちが募る。


「俺、豊海の幼馴染なんだけど、付き合うって本気?」


幼馴染、ねえ。
なんだか胡散臭い関係だな。

これあれじゃねえの?よくある展開から考えるとあいつの、豊海とやらのことを好きな男とか?


「……お前に関係ないだろ?」


まあそんなことどっちでもいいけど。
ただ目の前のこの男の顔が気に入らない。


俺は何でもわかっています、見たいな顔。