致死量カカオ


一階の端にある保健室が見えてなおいっそう重たく感じる体を向かわせた。


「……大丈夫」


そんな声が中からかすかに聞こえてきて足を一瞬止める。

声があの女のものなのかどうなのかはわからないけど……声が聞こえるってことは大丈夫なのか。

そう言ってるし。


めんどくさいなーと思いつつ、ドアに手をかける。


たとえ気まぐれであっても、今までなら断っていただろう彼女の告白に「付き合う?」と返事をしたにもかかわらず、断ってといわれた意味がわからない。


俺から告白でもして断られるならまだしも……告白してきたのは相手のほうだというのに。

しかも死ぬとか言われたら気にならないこともない。

っていうか気になる。

だけどめんどくさいこの状況。その原因はどう考えてもこの女だ……。余計めんどくさいことにならなきゃいいけど……なんて想いがよぎる。


ガラ、とドアを横に引いた瞬間に、どん、と胸に衝撃を受けて一瞬よろめきそうになった。

げふっと一瞬のどを詰まらせると目の前から「なに……?」と声が聞こえた。

女の声だ。
今日告白してきた変な女。


視線を少しだけ下げれば声から予想したとおり、変な女が鼻を少し赤くさせてさすりながら俺を見上げた。


声だけでわかるってことは……気がつかなかったけど、この女の声が結構好きなのかもしれない。

高くもない。低くもない。見かけと一緒でどっちでもない声は、何一つ着飾った印象がない。

それの何がいいのか、まではわからないけど。

でも嫌いじゃない。

まあそうじゃなかったら好みじゃないとはいえこんなにも気まぐれに告白を受けなかったかもしれない。