致死量カカオ


「裕子、さんって……昔付き合って、た、よね」


何で口に出してしまうんだろうと思いながらも、口だけが勝手に動いて気持ちを告げた。

返事は分かっているのに。


「え?ああ、よく知ってるな。一週間だけだけど。付き合ってたことになるのかよくわかんねえけど」


ずっと見てたから。
俯いて高城の顔を見ないように、どくどくと流れる鼻血を抑えながら歩いた。

一週間しか付き合ってないかも知れないけど、今の私と高城はまだ三日だ。二日かも知れない。

私達よりも長いじゃないかと言いたくなったけれどそんなの八つ当たりだ。


流れ出す鼻血はまだ止まる気配がなくて、体温は下がったけれど心臓の音は未だに私の体を支配していた。

もしかして鼻血真っ黒なんじゃないかな……。血液全部が真っ黒かも知れない。


「今まで……何人と、どんな風に、付き合ってきたの?」


それを聞いてどうするの?と頭の中で誰かが私に告げる。どっちも自分なのにどっちも自分じゃないみたい。

朦朧とする意識で、意識全てが自分のものじゃないみたいだ。


「今まで?そんなの聞きてえの?

……べつに、そんなに面白い話なんかねえけどな」


多分面白くないだろうな。

そんなこと分かってるのに、私はこくりと首を縦に落とすようにして頷いた。

首がゴロンと落ちて仕舞いそうなほど、自分の体に感覚がない。人形みたい。