ゆっくりとシャリアスの腕を解き、その手を引く。
そしてテーブルを挟んで向かい合って座る。


「…シャリアス。」

「なんだい?」

「お前の記憶がある限りで、何があったのか話してくれないか?」

「え…?」

「実際、どこまで、〝シャリアス〟としての記憶があるのかを知りたい。
特にジョアンナに記憶を奪われるまでの過程をな。」


気になるのはそこだった。
戦地に赴いたシャリアスがどこでジョアンナに出会い、なぜ記憶を奪われ駒となったのか。魔力ではおそらくジョアンナの方が上だろうが、何の抵抗もできなかったのか。


「…怪我をしていたんだ。もちろん致命傷になるほどのものではないよ。
でもまぁ…ある意味致命傷だったのかもしれない。傷の痛みに気を取られて、魔法の発動が遅れた。」

「戦地で出会ったのか?」

「戦線から少し離れたところにいたんだ。
でも僕の記憶はそこで途切れている。だからそれ以降は記憶を奪われて、それこそ彼女の〝駒〟となっていた。
だからシュリには生きているという報告はおろか、敵対する形になってしまった。」

「…それを責めてはいない。むしろ…生きていてくれて良かった。」

「何度謝ってもシュリの傷が癒えないことは分かっているけど…。たくさん傷付けたね…。本当に…。」


腕を伸ばして、シャリアスの唇に指をあてた。
その先は…言わせない。


「癒えぬ傷はない。人間なら時間のリミットがあるからこそ癒えぬまま終わる場合もあるが…私は幸か不幸か人間ではない。
だから時間が解決してくれる。…確信が持てているわけではないが、きっと。だからお前が謝る必要はない。傷付けたのは私もだ。そして傷付いたのは私の勝手だ。」


私はすっと立ち上がった。
光の差し込む窓辺へと歩みを進める。