「…そうだね。何も言わずに姿を消すよ。」


本当にこいつならそうする、そんな気がした。
こいつは躊躇いなくそういうことができる類の人間だ。


「ジアは悲しむ。」

「クロハは悲しくなんかないだろ?」

「ジアが悲しむ姿を見るのは嫌いだ。」

「俺も嫌だな…ジアが悲しむのは。」

「…逃げんなよ、キース。」

「…手厳しいね。」

「逃げても…いつか逃げ疲れて追い付かれるぞ。何から逃げてんのかは知らねぇけど。
逃げるお前の支えにならないくらい、おれらは脆弱に見えるか?」

「君たちに不足を感じたりなんてしてないよ。するはずがない。
逃げるも逃げないも全て俺の問題で責任は俺にある。」

「でもお前が仮に逃げたとして…お前がいなくなった空席は誰が埋める?」

「俺がいなくなったところで大した空きはできない。」

「それが勘違いなんだよ!」


思わず大きな声が出た。
静かな森の中ではあまりにも浮く声の大きさだった。


目を丸くして、それでも冷静さは保ってキースはクロハの言葉を待っていた。


「…お前は自分の立場を全然分かっていない。」