ことりはサラシを巻きなおして、学ランを着ると急いで一階に下りた。

洗面所へと向かい顔を洗いボサボサになっていたウィッグを整える。

母親は既に仕事に行ったようで、いなかった。

朝食がテーブルの上に置かれていたが時間がない。

ことりは食べずに鞄を持ち、玄関で待っている柚希の元に急いだ。





「ごめん!行こう!」

「朝食は食べたのか?」

「いや、時間ないし要らない。」

「...そうか。」

無理はするなよ、と柚希は言った。

依然と比べて彼は優しくなったような気がする。


「うん。」

「じゃ、行こう。」

先に一歩前を歩く柚希に慌ててついていく。

なんだか、柚希と登校していると改めて思うと少し変な感じがした。



「あ、そうだ、陽。」

「え?」


突然立ち止り、彼は振り向く。


「有難う。」


柚希は綺麗に、ことりに向かって微笑んだ。

自分は何か、礼を言われるようなことをしただろうか。

否、何もしていない。

逆に迷惑をかけたはずだ。


ことりは柚希の笑顔を見て、ぼっと顔が真っ赤になった。


(なんだろう、これ。)


楓に対して感じた胸の高鳴りとは、少し違う気がした。