午前中の授業は、全く頭に入らなかった。
それもそのはず、ずっとダンスレッスンの本を読んでいたからだ。
今日は新曲の練習がある。自分だけ遅れをとるわけにはいかない。
「森山さん、お願いね。」
昼休みになると、女子生徒がことりの元に来てそういった。
頷き、ことりは鞄を持って教室を出て屋上へ向かう。
今日知り合ったばかりなのに、図々しくないか心配になったが
しょうがない。
キィ、
屋上の扉を開くと、すでに彩乃は来ていた。
「森山先輩!」
楓そっくりの笑顔を向ける彼女に戸惑う。
まわりにいた男子達が、彩乃に注目している中ことりは
彼女の近くに歩み寄る。
「どうせだから、ごはん食べながら話そうよ♪」
「あ、うん...。」
彩乃はコンクリートの地面にすわり、弁当を広げた。
「奥村さんのお弁当、すごいね。」
弁当を見て、思ったことをそのまま口に出すと彩乃は恥ずかしそうに笑う。
「これ、お兄ちゃんが作ってるの。」
「え?」
「お父さんとお母さん、海外で仕事してて家にいないから。
二人暮らしみたいなものだよ。」
「そ、そうなんだ...なんか、意外。奥村さんのお兄さんが料理できるなんて
思ってなかった。」
「そうかな?...あ、そういえば森山先輩、あたしに聞きたいことあるんでしょ?」
にっこり、
感情の読めない笑みを向けられ、ことりは戸惑う。
「お、奥村さん、今日の新聞に載ってたことって本当なの?
その、お兄ちゃんとホテル行ったって...。」
「先輩、昨日陽さんと会ってないの?」
「う、うん。」
自分が陽の代わりに男装してるなんて口が裂けても言えない為に、
適当に会話を合わせることにした。
すると彩乃は少し考える素振りを見せてから口を開いた。
「本当だよ。」


