男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-






「ただいま。」

家に帰宅したのは、夜8時だった。

今日は色々ありすぎて、クタクタになったが休んでいる暇はない。

「ことり、お帰り。」

「...うん。」

ことりはウィッグとサラシを取る。

解放感と脱力感が彼女を包んだ。

「ご飯できてるわよ。」

「後ででいいよ。やることあるから。」

「そう?あ、今日のお仕事どうだったの?大丈夫だった?」

「う、うん。大丈夫だった、じゃあ私行くから!」

母親を適当にあしらうと、大きな袋を抱えて自室へと向かう。

どさ、

買ってきた大量の参考書、スカイのCDとコンサートDVDを床にバラまく。

「っ、」

(練習しなきゃ。)

もう、今日の収録みたいなことは通用しないだろう。

なら、やるしかない。

並大抵の努力ではどうにもならないことは薄々わかっている。

これ以上メンバーに迷惑をかけたくない。

疲労感を我慢して、ことりは「はじめてのダンスレッスン」という

参考書を手にした。


「な、何これ...。」

良くわからない。

一人で練習していても、それであっているのかすらわからない。

でも、聞ける人がいないのだ。

「疲れた...。」

無意識に呟く。

「あー、もー。」

ぼふっとベッドに倒れ込んだ。

「...郁くん、」

脳裏に浮かぶのは、郁の姿。

彼の事を考えると、少しだけドキドキする。

郁や、メンバーの為に、頑張ろう。

陽が築き上げてきた立場を、自分が護らなければならない。

ことりは再び起き上がると、練習を始めた。