「あーもー、なんでいきなり停電したのよ...。」

脱衣所から戻ってきた彩乃の声にハッと我に返った。

「地域全体、停電してるみたいだな。」

「...暫くすれば直るでしょ。」

楓は何時もの素振りで陽に返事をした。

先程あった事が、無かったことにされているように感じて

ことりはますます意味が分からなくなる。



「お湯も使えないし。今日はもう寝ようよ。」

「そうだね。」

「ことり先輩、部屋行きましょう!」

「あ、うん。」

彩乃に手を取られて、そのまま二階へと向かう。

少し様子が可笑しいことりに気づいて陽は不思議そうな表情を見せた。



「...楓、ことりに何かした?」

陽が何となく楓に問えば、彼はそっけなく 別に。 と言う。

何かしたんだろうな、と陽は感づいた。


「...あんまり、ことりをからかうなよ。」

「からかってない!」

「楓?」


楓らしくない感情的な声に驚くと彼は小さくごめんと謝る。


「...本当に、俺が居ない間に変わったよな。」

「...うん。あのさ、陽君、」

「何?」


「僕、ことりの事本気なんだよね。」


「...知ってる。」

今の楓を見て居れば分かることだ。

けど、彼女は郁の事を想っている。

陽も知っているからこそ、それ以上何も言えなかった。