ピ、

「もしもし、お母さん?」

『ことり!今すぐ、帰ってきなさい!』

「え?」

焦ったような、驚きを隠せないような声に戸惑いつつも

ことりは質問の意味が良くわからずに聞き返した。

「何かあったの?」




『陽君が、目を覚ましたのよ!』


それは、あまりにも突然だった。

ことりの思考が停止する。

ちょっと待って、今、なんて?

「ど、ういう...。」

『さっきね、病院から連絡があって目を覚ましたらしいの!』

ドクン、ドクン、心臓の鼓動が次第に早くなってくる。

安心と同時に、何とも言えないよくわからない感情が胸を締め付けて

悲しくなる。

嬉しいはずなのに素直に喜べない。

こんな中途半端なまま、終わりたくない。


するりと携帯が手からすべり落ちて、音をたてて地面にぶつかった。

様子が可笑しいことりに気づき二人が駆け寄る。



「何かあったのか?」

郁がそう声をかけたが、ことりは曖昧に笑って なんでもない と言う。

楓はじっと彼女を見つめていた。

何か隠しているに違いない。


「お、おれ、用事思い出して、」

携帯を拾うと通話を無理やり終了させて、ポケットにしまった。

「帰らなきゃ。」



もしかしたら、このままお別れになってしまうんじゃないかという不安が胸を過った。


「どういう事?」

「詳しくはまた、今度言うから!ごめん、早退する。また、な。」

戸惑いがちに振られた手と、無理やり作られた笑顔が痛々しい。

そのまま走り去ることりを暫く見つめている事しかできなかったが、

楓は何を思ったのかことりの後を追い走り出した。


「・・・。」

郁は、ただどうすることもできずに立ち尽くす。

何故だか楓と陽の間には自分が入れない何かがあるような気がして、

自分が行ってもきっと何も話してはくれないだろうと思った。