明らかに楓が郁を睨んでいるのがわかり、南は思わず顔を引きつらせる。

「この事、先生に話した方が良くない?」

面白くなさそうに楓が言えば、ことりと南は頷く。

「俺、事情説明してくる!」

「じゃあ、俺も、」

「陽はそこにいろって!」

「え、でも、」

良いから、と南は念を押すと一人職員室へ走って行ってしまった。

取り残されたことりは、漂っている険悪な空気に居心地が悪いと感じた。

何故だかわからないが2人は睨み合っている。

こんな場所に残されるくらいなら南に無理してでもついていけばよかったと思う。



「この際だから言うが、俺はお前に陽を渡す気はない。」


郁が突然告げた言葉に、陽は目を丸くした。

一方楓は更に表情を歪める。

郁が、ぎゅう、と自分の腕を掴んだ。


「何それ、もしかして、陽の事好きなの?」

「・・・。」

「郁って、ホモ?」


楓は陽がことりで、今は女だと知りながら意地の悪い質問を繰り返す。

否定も肯定もしない郁を見て、楓は苛立ったようにことりの反対側の腕を掴んだ。

ぐい、と自分の方に引き寄せようとするが郁も腕を掴んでいる為にそれは無理だった。


「ふ、二人とも、離せよ、」


ことりの意見は無視されて、どちらも譲ろうとしない。

どうしようと悩んでいる時だった。

ヴー、ヴー、とことりの携帯が鳴る。


母親からの電話だ。


この状況をまぬがれるチャンスだと思い、

ことりは電話を理由になんとか解放してもらうと携帯を取り出した。

2人から距離を取り電話に出る。

まだ睨み合っている二人に思わずため息がでそうになった。