彼女は根元に腰を下ろすと、バッグから黄ばんだ紙で包まれた小箱を取り出した。

もともと真っ白な包装紙で、青いリボンがかけられていたのだろう。

今はあちこち染みだらけで、リボンも色褪せている。


憲一が、別れる間際に手渡してくれたものだった。

「これ、亮二があなたに渡したかったものだったと思うんです。ほら、私にアドバイスをもらいに来たって、お話したでしょ?あのあとに用意したみたいなんですが、あいつのことだからきっと照れくさくて、渡せなかったんでしょう」

受け取る手が震えていた。

小さな小さな箱。

よく見ると包装紙に「WhiteDay」と書かれてあった。

博子の両手に包み込まれたそれを見て、

「よかった、やっとあなたに亮二の気持ちを届けられた」と、憲一の顔がホッとしたように緩んだ。



風が斜面を撫でながら吹き上がってくる。

博子は丁寧に包みを開けた。

ほどいたリボンの結び目の部分だけが、時が止まったかのように鮮やかな青を残している。


姿を現した白い箱のふたを、彼女はためらいがちに開けた。

その中には、煌めく小さなガラス製の白鳥が二羽、クッションに守られるように入っていた。

しなやかにたわむその白鳥の首には、それぞれに青いリボンと赤いリボンが巻かれてある。

きっと、「つがい」なのだろう。

白鳥が太陽の光を集めては、小さな光の破片をあちこちにいたずらに撒き散らす。


片方の手のひらに、ちょこん、と乗るくらいの小さな白鳥のつがい。

黒い優しい目が、お互いを慈しむように見ている。


「…新明くん」

目を閉じると、あの日のことがまるで昨日のことのように思い出された。