はぐれ雲。

ベッドの中で、林は満足げに笑うと電話を切った。

「亮二が死んだ」

笑いが次から次へと込み上げてくる。

林の左の首筋を、女の細い指が這ってゆく。

「うまくいったじゃない。予定通りってとこかしらね」

彼は煙草を取り出した。

「今から役者目指してもいいかもな」

「ばぁか」

すかさずその全裸の女が火をつける。

「本当にワルよね。こわい人。リサって子の叔父さんだなんて言って、騙して」

女はその首筋にある大きな傷痕を撫でながらそう言うと、男は煙にむせながら反論する。

「おいおい、俺は殺せとまでは言ってない。あのレンという男が勝手に突っ走って刺したんだ」

「そうなるように、たきつけたくせに」

ここまで順調に事が運ぶとは、林自身も思ってもいなかった。

あの城田蓮という男が金に強い執着を持ち、浅はかなやつでよかった、そう彼は思う。


「それはおまえも一緒だろ、マリコ」

マリコ。

そう林の胸の中にいたのは、青木真梨子だった。

まぎれもなく、あの「真梨子」。

「おまえの演技もたいしたもんだったぜ。亮二とあの女を会わせるために、うまい嘘つきやがって」

「ふふふっ」

そうあれは嘘だった。

本通りのバーで亮二に会ったなんて。

はじめから、新明亮二と加瀬博子を再会させるためについた、嘘。

林と組んでついた、嘘。

この世から邪魔者を消すために。

新明亮二がこの街にいる、そう知ればあの女は必ず会いに行く、そう思った。

真梨子は、博子の心をくすぐる言葉で彼女を操った。見事なくらい、思い通りに動いてくれた。


「本当にバカがつくくらい正直でお人好しな女だったわ。今頃事件を知って、自殺でもしてんじゃない?」


偶然だった。

圭条会の大幹部の林と出逢って関係を持つようになった頃、15年前突然姿を消した新明亮二が組織にいることを知った。

林の迎えに来た連中のひとりに、彼がいたのだ。

しかし亮二は目が合ったにもかかわらず、真梨子だと全く気付かなかった。

忘れているに違いない。

それがひどく腹立たしかった。

圭条会で力を持ち始めた亮二を煙たく思い始めた林と、愛した人をことごとく奪われ続けた真梨子の博子への憎しみが、そこで一つとなる。