はぐれ雲。

『今日午前11時すぎ、指定暴力団圭条会の30代男性幹部が、組の事務所前でナイフを持った男に腹部を刺され病院に搬送されましたが、まもなく死亡しました』

淡々と原稿を読み上げる女性アナウンサーの声に、リモコンを持つ手が震えた。

<30代男性幹部って…>

『刺した男は現場近くでまもなく取り押さえられました。県警は殺人の容疑で、城田蓮容疑者、26歳を逮捕しました』

その男の名前に聞き覚えがあった。
あの時、AGEHAに連れて行かれた時に湊川リサと一緒にいた男だ。

<まさか刺されたのは、新明…くん?」

『城田容疑者は、個人的な恨みから刺したと動機を語っているということですが、県警では対立する暴力団組織との抗争が激化している面も視野に入れ、慎重に捜査していく方針です。…次のニュースです』

博子は立ち上がった。

「ちょっと、さっきのニュース…」
そう言ってテレビに駆け寄る際、テーブルに置いてあったカップをひっかけた。

カップが音を立てて、倒れる。
琥珀色のコーヒーがテーブル一面に、そしてカーペットに染み込んでいく。

<違うよね、新明くん>

その時だった。

達也の言動の真意に気づいたのは。

出て行く前に抱きしめてくれたのも、実家に行くように言ったのも、この事件で命を落としたのが、新明亮二だからではないか。

呼び出し電話で、彼は事件の概要を知ったはずだ。

遅かれ早かれ、この事件を妻は知ることになる。

その時きっと博子は…そう思ったに違いない。

<私を気遣ってあの人は…
じゃあ、やっぱりあれは新明くん…?まさか、ね…>

全身の力が抜けていくようだった。

見計らったように、携帯電話が鳴る。

咄嗟に、亮二からだと思った。

彼からであることを、心から願った。

『俺じゃないから、心配すんなよ』

きっとそんな電話でありますように…

「あの…橘直人です」

耳元で暗く低い声がすると同時に、目の前が真っ暗になった。