はぐれ雲。

「急にどうしたの?大きな事件でしばらく帰れそうにないの?」

「……」言いよどむ彼。

「なんか変よ、それに顔色が少し悪いみたい」

「いいから、今日は実家に行くんだ。わかったね」と達也は念を押した。

「もう、わかったから。早くしないと、桜井さんに怒られちゃうわよ」

博子は笑顔で見送る。

彼はしつこいくらいに何度も「実家に行くように」と、言い残して出かけていった。


達也が仕事に出てからまもなく、母の幸恵から電話があった。

「うん、わかった。じゃあ、夕方くらいにそっちに行くね。…うん、じゃあね」

電話を切ると、途中だった昼食の後片付けを終わらせた。

ふと、出かける前の達也の様子が気になる。

「達也さんったら、わざわざお母さんに連絡いれなくても」

また何か心配しているのだろうか。
もう自分は達也を選んだのだ。
どこにも行かない。

<彼はまだ私に不安を抱いているの?
自分がいない間に、また新明くんに会いに行くと思ってる?そこまで私は彼を追い詰めている?>

博子は自分の頭をコツコツと叩いた。

<達也さんは、そんないやらしいことはしない>

そう思い直すと、淹れたてのコーヒーを一口飲んだ。


お気に入りのソファーに腰掛けると、何気なくテレビをつける。
相変わらず昼過ぎはワイドショーやドラマの再放送が中心だ。

何を見るでもなく適当にチャンネルを替えていると、見覚えのあるビルが映った。

博子は慌ててその番組にチャンネルを戻す。

ワイドショーの中のニュースだった。

そこには圭条会の本部事務所が入っているビルが映っていた。

たくさんの赤色灯や警官の姿もある。

大変なことが起こった、すぐにそう思った。

鼓動が早くなる。