「それじゃあ、トカゲのシッポ切りじゃねぇかよ!」

「しっ!声が大きい!」

前田がしかめっ面で、人差し指を口に当てる。

「すみません、つい。
でもなんで大和建設の社長とか、ダム建設の責任者だけ逮捕されて、亮二とその県会議員だっけ?そいつは捕まらないんだよ」

「県会議員の倉田という男は、暴力団組織からの献金だとは知らなかったと言っている。
経理は全て秘書に任せていたから、と。彼らお得意の常套句だよ。全額返金して、きれいさっぱりだ」

「なんだよ、それ。じゃあ、亮二は?」

「あいつは賢い。決して自分は表舞台には立たない。日陰に徹する。まぁ、計画を練る、シナリオを作るといった役目だな」

暗い路地で、二人は寒さに身を縮めながら話していた。

「ズル賢いやつだな、相変わらず」

「今回の贈賄の件で、新明の手下は何人か捕まった。罪をかぶってもらって、自分はのうのうと娑婆の空気を吸ってる。
下のやつらも、刑務所に入ればそれなりの箔がつく、出てきたらきたで、それなりのポジションが用意されてると思ったら、喜んで罪をかぶるよ」

「なぁ!前田さん、亮二の野郎、早く殺っちまおうよ」

「…それが難しくなった」

「どういうことだよ。まさか、やっぱり協力できないって言うんじゃ…」

不安げな顔で、レンは目の前の中年男を見遣った。

「そうじゃない。どうやら新明は、圭条会の総長のところへ行ったらしいんだ」

「は?どういうことだよ」

「出世した、そうとでも言おうか。とにかく迂闊に手は出せなくなった」

「出世?ますます意味わかんねぇ。何人も犠牲にしてかよ」

「ああ。だから、新明の行動パターンを初めから調査し直しだ」

「それならちょっと延期するのも、仕方ねぇな。完璧な計画立てなきゃな、な?前田さん」


前田はレンの帰っていく後ろ姿を見つめながら、口を歪める。

「完璧、ねぇ…」と。