はぐれ雲。

どうして？
どうしてなんだろう。

この世には、こんなにもたくさんの人がいるのに、

彼女はなぜ、亮二でなければいけなかったのか。

彼はなぜ、博子でなければいけなかったのか…

なぜ実らない恋とわかっていたのに、二人は出逢ってしまったのか。

それも、残酷なことに、二度も…


しかし、それが「運命」。

幼い恋が愛へと変わる前に、運命が二人を引き離した。

そして時を経て、再び引き合わせた。

そう…

あの頃、二人で育んだ幼い恋は「愛してる」と言うには早すぎた。

そして今、紡ぎ直そうと願った想いは、「愛してる」と言うには遅すぎた。


これが彼らの「宿命」なのだ。

決して叶わない恋の結末。



「ごめんね、新明くん。ごめんね…」

＜私、あの時、あなたが背負っていた悩みに気付いてあげることができなかった。いつもいつもあなたに会いたい、あなたは私のことどう想ってるの、そんなことばっかり考えてた。
学校からの帰り道、寂しそうな後ろ姿のあなたに、心の安らぐ言葉をかけていたなら…
心の闇を明るく照らす言葉を、私があの時知っていたなら、今頃あなたは…＞


「ごめんね、何も言えなくて。ごめんね、あなたのために何もできなくて…本当にごめんなさい…」



博子の頭に、亮二は自分の頬を押し当てた。

「謝るな。俺がこうなったのは、おまえのせいじゃない。全部、俺自身が望んだことだ」

「いいえ、私がもっと…」

「博子、俺はおまえに会えてよかったと思ってる。おまえを想うことで、心が照らされた。今までずっとだ。どんなに離れていても、どん底にいた時も、おまえが俺の中にいてくれた。これからもずっとそれは変わらない」

「…新明くん」

泣きじゃくる博子の耳元で亮二が言った。

「泣くな」

包み込むような温かい声色。

まるで幼子をなだめるような、そして少し困ったような声。


「頼むから、泣くなよ…」


二人はお互いをしっかりと抱きしめ合った。