はぐれ雲。


「…もう、やっと言ってくれたのね。
あなた中学生の時、ずっと校門前で待たせてって、私にぼやいてたでしょ?でもね、私は15年も待ってたのよ、この言葉を。ずっと待ってたの」

「博子」

「嬉しい、やっと聞けたのね」

亮二の胸の中でそう呟いて、顔を押し当てた。

彼の鼓動が聞こえる。

力強い、初めて聞く彼の生きている証。

<ああ、こんなふうだったのね…>

もっともっと強く、そして深く彼の胸に顔をうずめる。


あの頃、ずっと思い描いてた。

映画やドラマみたいに、こうやって好きな人に抱きしめられることを。

すらりとしているのに、薄手のシャツから透けて見える彼の体はとても筋肉質で…

あの胸に飛び込んだら、一体どんな感じなんだろう…

いつもそう思ってた。

いつも胸をときめかしていた。

長い年月を経て、今日という「別れの日」にやっとそれが叶うなんて…


「これから先、どこで何をしていようと…」

亮二の静かな声が、この広い胸に伝わり博子の耳に届く。

彼女を抱きしめる腕に力がこめられた。

「俺は一生涯、おまえだけを想い続ける」

博子は目を閉じた。

彼の言葉を心に刻み付けていく。

決して忘れないように。

彼の愛の言葉のひとつひとつを漏らさぬよう、留め置くために。