はぐれ雲。

沈黙が続く。

視線はそのままに、突然亮二が厳しい顔つきになった。

「博子」

雨足が強くなり、窓に雨が何本も筋を描く。

亮二が博子に向き直って言った。

絞り出すような、切なくて苦しげな声で。


「…もう、会えない」

「…うん」

彼女は一度だけ、ゆっくりと頷いた。

「私もね、今日お別れを言いに来たの」

無理に微笑んだせいで、ぎこちない笑顔になる。

「新明くん、私ね…」

声がかすれた。

喉の奥が焼けるように痛む。

だけど、言わなければ。ずっと伝えたかったことがある。

突然いなくなった彼を想って、博子がどれだけ辛かったか、どれだけの涙を流したことか。

どれほど目の前の男を大切に想っていたか…

きっと彼は知らないのだから。


彼への想いの全てが、体中を駆け巡った。

胸が張り裂けそうなくらい苦しい。

「私、ずっとあなたが好きだった」

やっとの思いで、そして震える声でそう告げた。

「…好き、だった」

どうしてもっと早く、この気持ちを伝えなかったのだろう。

伝えていたなら、この二人にはもっと違う人生が待っていたのかもしれないのに。

亮二の目をしっかりと見つめたまま、博子は精一杯の笑顔を向けた。

「でもね、その想いも今日で終わりにする。本当に今日で最後にするわ…」

彼は黙ったまま、見たことのないような、悲しい瞳で見つめ返す。


<新明くん、そんな顔しないで。
お願い、そんな辛い目を…しないで>