あの時、今と同じように目を閉じていた彼を痛々しく見守っていた自分を、博子は思い出した。
確かにキャプテンでないことをバカにされたこともあった。
彼のお父さんが亡くなって、家計が大変な時期での彼の中学進学。
周りの剣道部員が防具や胴着を新調する中、卒業した先輩のものを譲り受けていた亮二。
そのことを笑われたのも、それが数え切れないくらいあったのも、知っている。
どんなに悔しかっただろう。
<そうよ、あなたは誰よりも強かった。そして誰よりも傷付きやすかった。なのに…私はあなたに何の言葉もかけてあげられなかった>
たまらず、彼から目を背ける。
「俺は思った。この世は金と権力だってな。だから今まで俺は何だってやってきた。
恥も外聞もなく、頭を下げたこともあった。気に入らない相手とも組んで仕事もしてきた」
過去に味わった彼の悔しさが、その言葉から滲み出てくるようだ。
「今でも…そう思ってる?世の中、お金と、権力だって」
悲しそうに博子は尋ねてみた。
「さあ、どうかな」
「…新明くん」
「でも、もう後戻りはできない。
いや、後戻りしない。一歩足を踏み入れたら、立ち止まることが許されない世界で俺は生きてる。その掟から逃げるようなことは絶対にしない。
そしていつか必ず、頂点に立つ。
この世界で誰よりも力を持ってやる。
金と権力、全てを手に入れる」
まるで自分に言い聞かせるように彼は言う。
<本当にそう思ってる?
あなたが本当に欲しかったのは、そんなもの?>
けれど、そんなことを言えるはずがなかった。
彼の味わってきた苦しみや悲しみを、博子が全て知ってるわけではなかったから。
確かにキャプテンでないことをバカにされたこともあった。
彼のお父さんが亡くなって、家計が大変な時期での彼の中学進学。
周りの剣道部員が防具や胴着を新調する中、卒業した先輩のものを譲り受けていた亮二。
そのことを笑われたのも、それが数え切れないくらいあったのも、知っている。
どんなに悔しかっただろう。
<そうよ、あなたは誰よりも強かった。そして誰よりも傷付きやすかった。なのに…私はあなたに何の言葉もかけてあげられなかった>
たまらず、彼から目を背ける。
「俺は思った。この世は金と権力だってな。だから今まで俺は何だってやってきた。
恥も外聞もなく、頭を下げたこともあった。気に入らない相手とも組んで仕事もしてきた」
過去に味わった彼の悔しさが、その言葉から滲み出てくるようだ。
「今でも…そう思ってる?世の中、お金と、権力だって」
悲しそうに博子は尋ねてみた。
「さあ、どうかな」
「…新明くん」
「でも、もう後戻りはできない。
いや、後戻りしない。一歩足を踏み入れたら、立ち止まることが許されない世界で俺は生きてる。その掟から逃げるようなことは絶対にしない。
そしていつか必ず、頂点に立つ。
この世界で誰よりも力を持ってやる。
金と権力、全てを手に入れる」
まるで自分に言い聞かせるように彼は言う。
<本当にそう思ってる?
あなたが本当に欲しかったのは、そんなもの?>
けれど、そんなことを言えるはずがなかった。
彼の味わってきた苦しみや悲しみを、博子が全て知ってるわけではなかったから。


