はぐれ雲。

彼の自宅の広いリビングに足を踏み入れると、曇った空が目の前に広がった。

何もない殺風景な彼の部屋に、その窓は大きすぎる気がする。

晴れた日なら、冷気に研ぎ澄まされた夜の都会がきらめいて見えるのだろうに。

今日は何もかもぼやけている。

下をのぞけば、傘の花があちらこちらで開くのがわかった。辺りはすでに薄暗く、傘の色まではわからない。

ここからでは、何もかも小さく見える。

人も、車も、街も…

人が高いところに住みたがるのは、全てを見下ろせる眺めに、この世を支配した偽りの優越感に浸りたいからだ。

新明亮二は、その大きな窓に歩み寄った。


「リサの件では、おまえにも加瀬さんにも辛い思いをさせてしまって、すまなかった」

「ううん…」

博子は彼を目で追う。

もうこうやって、近くで彼を見るのは最後になるだろう。

大好きだった彼の後ろ姿も…

博子はそっと、後ろに下がって彼の背中を見つめた。

亮二はしばらくぼんやりとした夜景を見ていた。

博子も、どう切り出していいのかわからない。

今日が最後の日だと、お互いわかっているはずなのに。

あの日、ネオンの光に浮かび上がったあの街で、彼に声をかけてしまったあの瞬間、すでにこの別れは用意されていたのに。

<覚悟はしていたけれど、なんて辛いの>



「覚えてるか」

亮二の低くて、静かな声に博子は我に返る。

「ガキん時、剣道教室で一番強かった俺がキャプテンになれなかった。中学になればなったで、新しい防具が買えない貧乏を、バカにされたよ」

博子は黙っていた。

「…悔しかった」

彼は固く目を閉ざす。

「実力があっても、トップになれない、金のないやつは見下される、そんな現実に愕然とした」