はぐれ雲。

あやしい雲行きの中、博子を乗せた車が走る。

『マンションに近付いたら、座席に伏せてください。警察や、組のやつらが張っているかもしれません。駐車場に入ったら、裏口からできるだけ人と顔を合わせないようにしてエレベーターに乗ってください。
亮二さんの部屋は最上階の30階です。
まずエレベーターで15階まで行って、そこで一度降りてください。
面倒ですが、あなたが亮二さんに会っているとバレると大変なことになりますから。
そこでしばらくして、もう一度エレベーターで28階まで行ってください。
この時、エレベーターに誰も乗っていないことを確認してください。
28階からは非常階段で30階へ…。
そのフロアには一部屋しかありませんから、すぐにわかると思います。
そこで亮二さんが待っています…。迎えは俺が行きます』

「わかりました。あの、橘さん?」

『はい』

「ありがとう」

『いえ、とんでもありません…』

博子は携帯電話を切ると、浩介に返した。

そして前方に見える高層マンションに目をやると、後部座席に身を伏せる。


直人に言われた通りに、最上階の30階に着いた。

ひとつしかないドアのチャイムを鳴らすと、亮二がゆっくりと顔を出した。

「どうしたの!その顔」

久しぶりに会う彼の左のこめかみから頬にかけて、うっすらと紫のアザがあった。

「なんでもない」

アザに手を伸ばそうとした博子に、彼は無愛想ににそう返、部屋に入るように促した。

できたばかりのようなアザ。

今朝の新聞の見出しが頭をよぎる。

暴力団組織のダム建設受注における贈収賄疑惑だ。

<もしかして、新明くんが関係していたの?それが明るみになって、それで…?>

博子は亮二の横顔を見つめた。