はぐれ雲。

博子は困惑した顔で玄関に出てきた。

「…浩介くん」
彼の肩にそっと手を置く。

「わざわざ来てくれてありがとう。
でも、もう新明くんとは会わないって決めてるの。会って話さなくても、もうお互いに終わりだって、そうわかってるから。きっと彼も同じ気持ちでいてくれてる」

悔しそうな顔で、浩介が顔を上げる。

「だから、もう会わない」
博子は、にっこり微笑んだ。

「今までありがとうって、体に気をつけてって、伝えてくれる?」

「…伝えねぇよ、俺は!伝えるもんかよ!自分で言えよ、そんなこと!なぁ、博子さん?本当にそれでいいのかよ。自分の気持ちに嘘つくなよ。このまま別れたら、あんただって絶対に後悔する!絶対に…!こんな終わり方でいいわけないんだよ、ちくしょう!」

浩介が、ドアを蹴った。

「…いいのよ、これで」

彼女は軽く頭を下げると、部屋に戻ろうとした。

「博子」

二人のやりとりをじっと見ていた達也が、その手をつかんだ。

「彼と行くんだ」

「達也さん!何を言ってるの!?」

博子の驚いた顔が達也を見る。

「彼の言う通りじゃないかな。
このままだと、また君は中途半端な別れに一生後悔することになるんじゃないか。俺もそんなのは嫌だ。俺のためにも、ちゃんと別れを言ってきてくれないか」

「でも!」

「大丈夫、君を信じてる。明日俺がここに帰ってきた時、いつもと変わらず君が笑顔で出迎えてくれるって…」

「…達也さん」

「しっかり、さよならを言ってくるんだ。思い残すことがないように」

博子の横で達也は笑って頷き、そっと背中を押した。

その笑顔は、胸をしめつけるような切ないものだった。