はぐれ雲。

「明日はたぶん昼過ぎに帰ると思う」

「うん」

「また連絡するよ」

「あ、ねぇ。雨が降りそうだから、折り畳み傘を入れておいたから」

「ありがとう」

泊まり勤務に向かう達也は、指でそっと博子の頬に触れた。
照れたように笑う彼女は、夫のネクタイの結び目を直す。

達也は桜井の計らいで、捜査一課に残ることが許された。
桜井が課長にかけあってくれたのだ。

圭条会と博子のつながりも、情報漏洩の確かな証拠もない。

知らなかったとはいえ、暴力団現役幹部と刑事の妻の間に親交があったことは許されないが、自分が退職するまで責任をもって達也を指導するからと、必死に頭を下げてくれた。

加瀬夫妻は涙を流して、ただただ感謝した。


「ちゃんと戸締りするんだよ」

「もう、わかってるって」

こうやって明るく振舞う彼女に、達也は胸を痛めていた。

警察の事情聴取の後、彼女は亮二と会うことはなかった。

せめて最後に話をさせてやりたいと思ったこともあったが、それは自分が警察官という立場である以上、不可能である。

博子が亮二を忘れるために、必死に努力をしているように達也は思えた。

料理教室や編物教室に通い、地域のボランティア活動にも積極的に参加するようになった。

家に一人でいる時間を必死でなくそうとしているように見える。

彼を想う時間をなくそうとしているように思える。