はぐれ雲。

「連れてけ!」

意識が朦朧とする中、亮二は再び立たされた。

「まぁ、待てよ、林」
しわがれた声がした。

奥でやりとりを聞いていた初老の男が、こちらに向き直る。

皆は一様に深々と頭を下げた。

圭条会五代目総長、神園昭吾だった。

「相変わらず、おまえは身内に厳しいな。こいつの兄貴なら、ちょっとはかばってやってもいいんじゃねぇか」

時々かすれる声にも、かなりの威圧感が感じられる。

「こいつが、あの新明亮二か」

林に問う。

「はい」

杖をつき少し引きずった右足をかばいながら、神園は亮二に近寄った。

そしてふらつきながらも、必死に立ち頭を下げる彼を見つめる。

「この度は…申し訳…あり、ありませんで…した…」

冷たい視線が突き刺さってくるようだ。


しばらく、神園はこの若い幹部組員を見つめた後、こう言った。

「林、こいつを俺に譲ってくれんか」

「は?」

あまりの唐突な言葉に、林は目を白黒させた。

周りがにわかにざわめき始める。

「この男をくれ、と言ってるんだ」

「ですがこんなやつ、総長のお手を煩わせるだけです」

神園はそんな言葉にかまわず、ドアに向かって歩き出した。

「こいつを連れて行け。俺の車に乗せろ」

「総長」

「一人くらい、いいじゃねぇか。また新しいやつを探せよ。得意だろ、おまえ、そういうのは」

軽く杖を振り回すと、林にそう言った。

亮二も両脇を抱えられて、彼のあとに引きずられていく。

「見送りはいらん」

静かにドアが閉まった。

林が手を差し出すと、若い男がすかさずおしぼりを手渡す。

灰で汚れた手を丁寧に拭くと、林は引きつった顔のままテーブルを蹴った。