はぐれ雲。

「結果がどうなろうと、俺は与えられた仕事に全力で取り組みました。言い訳などありません。
こうなったのは、まぎれもなく、自分に隙があったからです」

「今日もかっこいいこと言ってくれるじゃねぇか。だけどよ、ヘマしたことに変わりはねぇよな」

薄ら笑いをしながら、林は亮二の前に来て感心するような素振りで胸元を触った。


「おお、おまえ上等なネクタイしてるじゃねぇか。なかなかのセンスだ。さすがだ。女もイチコロだぜ。でもよ、ちょっと歪んでる…ぞ!」

そう言い終わらないうちに、林は思いっきり亮二のネクタイを引っ張り、彼を引き倒した。

亮二が床に手をつく。

「ふざけんなよ!おまえ!
この前からリサの件といい、今回のことといい!警察に付け入るスキを与えてんじゃねぇぞ!」

そう言って、林は亮二の頭を踏みつけた。

「どうやって落とし前つけるんだ、え?」

膝をつき、頭を下げながら亮二は言った。

「覚悟は、できています」

「おお、だったらその覚悟見せてもらおうじゃねぇか」

数人の男たちが亮二の両脇を抱えるようにして、立たせた。

それでも、彼に怯えた様子も慌てた様子を見せない。

終始落ち着いていた。

これが「新明亮二」。

そこを見込んでこの世界に引き入れたのに、今の林にはそれが気に入らなかった。

何事にも動じることがない。


親同然に面倒を見てきた自分にすら、媚びることを一切しない。

「なんだ、その目は」

「本当に申し訳ありませんでした」

ちらりと見上げた彼の目の光に、林の中の心の何かが切れた。

咄嗟に近くにあった灰皿を手に取ると、亮二の側頭部を殴った。

あまりの衝撃で、目の前が真っ暗になり彼は倒れこむ。

「亮二さん!」
浩介が叫びながら駆け寄り、抱き起こした。

「おい、おまえらだって、亮二さんの世話になってるだろ!なんで、平気で見てられんだよ!!」

周りにいる男たちに叫んだ。

しかし、彼らはうつむいて目を合わせようとしない。

どちらにつけば有利なのか、わかっているのだ。

ミスをした未来のない若手幹部と、

名実共に次期総長と名高い大物幹部と。