はぐれ雲。


「林さん」
代わりに直人が口を開いた。

「これは誰かが外部に漏らしたとしか思えません。亮二さんは細心の注意を払って、何社にも金を回した上で倉田氏に渡しています。
圭条会からの献金だと公になるのは、この中に裏切ったやつがいるからです」

彼は必死に訴えた。亮二のために。

「ほう、おまえはこの中に裏切り者がいると、そう言うんだな。俺たちの中の誰かが裏切ったと」

「残念ながら」

「ふざけんな!」

林はズカズカ近寄ると、彼の腹を蹴り上げた。

突然のことで直人は避けきれず、「うっ」と低い声をあげて、床に倒れる。

「そんなことは、誰だか突き止めてから言え!憶測で物を言うんじゃねぇよ!」

執拗に直人にケリを入れようとする林の前に、亮二が立ちはだかった。

「自分の責任です。こいつは関係ありません」

背の高い彼は、林を見下ろすように言った。

その隙に、浩介が直人を抱き起こす。

「ヘマすんなって言っただろ?言ったよなぁ、亮二?おまえのせいで大和建設は終わりだ。
社長も逮捕される。でもおまえは影で操ってたからな、捕まることはないだろうな」

絶大な信頼を置いていた弟分の胸をドンッと一押しして、林は彼を自分から遠ざけた。

「申し訳ありません」
再び、深々と頭を下げる。

「言い訳しろよ。さすがに今回はあるだろ、言いたいこと。いつもは、かっこつけて、俺の責任だって言い張るけどよ。しろよ言い訳、自分の口で。聞いてやるよ、なあ!」

「ありません」

「…んだと?」

林の顔色が青くなる。