はぐれ雲。

記事には、ダム建設に関わる責任者が数回に渡って飲食店での接待を受け、また賄賂を受け取った可能性がある、と書いてあった。

その建設会社の社長が、暴力団関係者であることまでつきとめている。

また、県会議員からの圧力もあったのではないか、という見方もあるようだ。

なぜなら、この県会議員の事務所が暴力団関係者からとわからぬように何社も経由して回ってきた金を、献金という名目で受け取っていたことがわかったからだ。

具体的な名前は出ていないが、関係者ならば圭条会と県会議員の倉田のことだとすぐにわかる。

実名がマスコミに出るのも時間の問題だろう。

「なんでバレるんだよ!」
浩介は唾を飛ばしながら怒鳴った。

「誰かがリークしたか…」

直人が静かに、しかし怒りに満ちた声で言った。

「誰だよ、そいつ!」

「さぁな…」

「さぁなって、おまえ!いっつもそう言ってるじゃねぇか!」

「…裏切り者は、この組織の中にいる」

「……」

威勢の良かった浩介が、一瞬にして黙り込む。

直人は確信していた。

今回のダム建設受注に関しては、絶対に漏れることがないように細心の注意を払っていた。

それが外部に漏れるということは、内部に裏切り者がいるという可能性が高い。

これを担当したのは亮二だ。

彼を恨む者の仕業か…
組織内部で彼を憎んでいる者…
彼の出世を快く思わない他の幹部たち。

しかし、今回のダム建設による利益は大きい。
果たして、それを彼らは無駄にするだろうか。

むしろ、自分たちもその恩恵にあやかろうとするのではないだろうか。

下の者たちも、亮二を「兄さん」と呼んで、慕っている。

<誰だ?一体誰なんだ?>

考えを巡らせたが、一向に思いつかなかった。

このことで間違いなく亮二は責めを受ける。

浩介と直人は不安げに顔を見合わせた。