週末も瀬川は、亮二が経営するクラブに来ていた。

この間は心ゆくまで楽しんだのだろう。

もう常連客のような面持ちでVIP席に座り、ホステスと酒を飲んでいる。

ここが自分を利用しようとする暴力団の経営するクラブとも知らずに。

そこに突如、県会議員の倉田が現れると真っ赤な顔が真っ青に急変し、瀬川は立ち上がった。

「まあまあ」
笑顔の不釣合いな、そのいかつい顔が真面目な男の前に腰かける。


少し遅れて、亮二が姿を見せた。

「いらっしゃいませ。倉田さま、瀬川さま」

恭しくお辞儀をする亮二を、倉田が意味ありげに見つめる。

それに応えるかのように、亮二は微かに口元を緩めた。


年が明けて、県が発注するダム建設を圭条会のフロント企業である大和建設が請け負うことになった。

世間には、この大和建設が暴力団組織の関連企業だということはまだ知れ渡っていない。


適当な時に適当な人物に金を積めば、大抵のことはまかりとおる、それが今の世の中の常だ。

まずは、県のダム建設発注責任者の瀬川と大和建設の中を取り持つこと。

大和建設から、遠まわしに瀬川の子どもたちへの学費援助を持ちかける。

次は県会議員の倉田から、それとなく圧力をかけてもらう。

彼には献金という名目で、圭条会から他のフロント企業を経由して多額の金を渡してある。

受け取るものを受け取った以上、瀬川はもう断れる立場ではなかった。

ダム建設は大和建設に…

まさに悪魔のささやきだった。


こうして亮二の陰の指示で、ダム建設は大和建設が勝ち取った。

そして、彼の組での格があがることは間違いない。