「高校の入学式の日、新明先輩がいなくなってぬけがらみたいになったあんたを見て…」

親友の女は、ニヤリと笑った。

「いい気味って、思った」


博子は手で口を覆った。

「……!」

その言葉に吐き気がする。

さらに真梨子は追い討ちをかけるように続ける。

「あんたが達也先輩の子どもを流産したって聞いた時」

博子はひきつる顔で、親友を見た。

「ざまあみろって、思った」


真梨子が、いや、世界が歪んで見えた。

音のない世界に漂っている気がした。



<そんなの嘘よ、なにもかも嘘よ>



コツコツと無音の世界に唯一聞こえた音。

真梨子のヒールの遠ざかる音だった。




残された博子は息をするのもやっとだった。

無意識のうちに呼吸が早くなる。

深呼吸をしようと思えば思うほど、息が吸えなくなる。

博子はやっとの思いで、店を出た。

足がふらつき、頭が真っ白になる。

音も色もない世界。

そこに漂っていた。


ガードレールだろう、腰の高さ固いものに手をついた。

手のひらに、薄い鉄が食い込んでくるが、その痛みなど感じない程に博子は体を預けた。

立っていられない。

手足が小刻みに震える。

<苦しい…>

真梨子の声が耳元で繰り返される。

『いい気味』

『ざまあみろ』

<苦しい…
このまま死んでしまえばいいのに。
私なんて、いなくなれば…>

意識が遠のく中、何度も何度もそう思った。