「達也先輩のことも、好きだった。ううん、今でも好き」

博子の顔が、みるみるうちに歪んでいく。

「今、なん…て?」

「何回でも言ってあげるわよ。
達也先輩が好き、大学の時から。初めて彼に会った時から!なのにあんたがまた奪った。私から達也先輩を奪った!」

「…そんな」

博子は喉に鉛が詰まっているようだったが、何とか声を振り絞って聞いた。

「じゃあ、どうしてあの時、私に剣道部に入るように勧めたの…」

顔が真っ青だった。

そんな彼女を見て、真梨子は鼻で笑う。

「あんたをダシに、達也先輩に近付きたかったのよ。どうせ入部しないと思った。それなのに、マネージャーになるんだもん、やんなっちゃう」

二人の目が合った。

真梨子の瞳には憎しみが、

博子の瞳には悲しみが、

それぞれ溢れていた。

「どうして言ってくれなかったの。言ってくれてたら…」

握りしめた手が妙に汗ばんでいて、スカートを湿らせていた。

膝がカタカタとまるで、ぜんまい仕掛けの玩具のように音を出して震えている。

「あきらめた?嘘よ、そんなの。
昔の恋を忘れるためには、達也先輩はちょうどいい相手だったんでしょ。でも結局、昔の男が頭から離れなかった。達也先輩のこと、本当は愛してなかったくせに!ただ、そばにいて愛してくれる存在だったから、手離したくなかっただけでしょ!
…彼のこと、愛してもないのに結婚した!自分のものにした!
その上、今になって新明先輩が現れて、散々楽しんで…ヤバくなった途端に、二人を天秤にかけた」

「違う、真梨子。違う!」

「何が違うの?その通りでしょ!
私は達也先輩を愛してる。でも、彼は…彼はあんたに裏切られて、傷付いて…
それでも何て言ったと思う?
あんたを愛してる、そばにいてくれるだけで幸せなんだって。
そんなの幸せって言わない!
あんなに優しい人がいるのに、他の男を想ってるあんたは、最低よ!」