はぐれ雲。

「何よ!みんな博子、博子、博子って!!」

叫ぶような声をあげて、真梨子はテーブルを両手で思いっきり叩いた。

ホットコーヒーの入ったカップが激しく揺れ、静かな湖が荒々しく波立だった。


一瞬にしてその場の空気が凍りつく。

周囲の客も、ひそひそ話しながらこちらを見ている。

「真梨子」

尋常ではない彼女を目の当たりにして、博子はどうしていいのかわからなかった。

「真梨…」

「どうして!どうしてあんたばっかり!
新明先輩も、達也先輩も!なんであんたを選ぶのよ、かばうのよ!」

あまりの剣幕に、博子もなす術がない。

「どうしたのよ、急に」

「結局は、男は一人では何もできない女がいいのよ。自立して、自分の足でしっかり歩いている女には、興味がないのよ。君は一人でも大丈夫だって、そう言いたいのよ、世の中の男たちは!」

真梨子は目が充血し、肩で息をしていた。

「そんな、真梨子、落ち着いて。とにかく、ちょっと…」

「私はずっと冷静よ」

「でも…」

荒々しい呼吸を整えるように、彼女は額に手を当、目を閉じた。

胸元が大きく上下しているのがわかる。

「真梨…」

「ね、博子」

突然カッと見開いた目の前のその瞳に、ほんの一瞬博子は寒気を感じた。

「いいこと教えてあげよっか」

真梨子がひきつった笑顔を博子に向ける。

「いいこと?」

彼女のそんな顔を今まで見たことがなかった。

そして次に出た言葉に、彼女は息をすることすら忘れた。

「私ね、昔、新明先輩が好きだったの」

「なっ…」

声が出なかった。

「いつからか知りたい?
あんたが剣道教室に入ってくる前からよ!」

「そんな…全然…」

「気がつかなかった?
そうでしょうね、あんた新明先輩のことで頭がいっぱいだったものね!それに私、必死に諦めようとしたのよ。あんたと彼がうまくいくように、めいっぱい協力した!」

博子の手が震えた。

身体中の血液が逆流するような感覚に襲われる。

「もうひとつ、教えてあげる」

そんな博子を見て、真梨子はおもしろそうに冷たい笑みを浮かべながら続けた。