はぐれ雲。

「離婚してほしいの」

その時、初めて達也が振り返った。

なぜか、その顔には優しい笑みが浮かんでいる。

「離婚はしないって、この前言ったはずだよ」

「このままじゃ達也さんは刑事でいられなくなる。夢だったじゃない。それなのに、私のせいで…」

「そんなこと」
達也がふっと笑った。

「どうでもいいよ。君がいなくなることに比べれば、刑事でなくなること、警察官でなくなることなんて、どうってことない」

「私はこんなにもあなたを苦しめた、傷つけた、悲しませた!どうしてそんなこと…」

「確かにそうだね。でも」

彼は手の中のおもちゃを見ながら続けた。

「君が好きなんだ」

「……」

「あれからずっと考えてた。それでわかったんだ。初めて会った時から変わらず、君が好きなんだって。やっぱり博子じゃないと、ダメなんだって」

包み込むような優しい声だった。
初めて「好きだ」と言ってくれた時と同じ、穏やかな声。

<私だってあなたが好きよ。
だからこそ、達也さん。
あなたを私から解放してあげたいの。
私なんかのそばにいてはだめ。
あなたの夢も、未来も全て壊してしまうもの>

「これからも君と一緒にいたい。その気持ちに変わりはない」

博子の頬を伝う涙を、達也の冷たい指がそっと拭う。

「君なりに俺を愛してたって、さっき言ったじゃないか」

「でも」

「それで充分だよ」

「……」

「もう君を責めたりしない。
責めることなんてできないよ。
誰だって、そんなに好きだった人をすぐに忘れることなんてできない。俺だってそうだよ。
俺だって、すぐに君を忘れろって言われても、無理な話だ。博子は人より少し時間がかかるタイプみたいだけどね」

達也はそう言うと、微かに笑った。