達也は大きく息をついた。
取調べ中に命を命とも思わない、信じられない言葉が次々と飛び出してくる、そんなことはよくあることだ。
しかし、今の彼にとってこの彼女の言葉は辛すぎる。
「聴取の最中に取り乱してしまって、申し訳ありません」
達也が頭を下げると、桜井が笑いながら手を振った。
「気にすんな。わしも昔はおまえみたいに、よぅ取調べで怒鳴りよったわ」
そう言うと、自動販売機で缶コーヒーを2本買う。
そのうちの一本を達也に渡すと、諭すように言った。
「おまえがあの子に腹立つのはよぅわかる。せやけど、あの子も母親になるっていうプレッシャーがあったんちゃうかな?実家も遠いみたいやし」
桜井は缶コーヒーを一口飲みながら続ける。
「女っちゅう生き物は妊娠した瞬間に、ものすごい責任を感じるもんやって別れた嫁さんが言いよったわ。食事や運動に気を遣うて、元気な子を産まなあかん、産んだら産んだで立派な母親にならなあかんって。日に日に大きくなる腹を見とって、我が子に会えるっちゅう楽しみがある反面、気持ちばっかり焦ってまうんやろな。あの子はまだ若いし、頼る親もおらへん。
子どもの父親も逃げてもた。
それやのに、自分の中に一つの命が宿ってる。途方に暮れてもたんやろう」
達也はまだ冷たい缶コーヒーを見つめた。
「せやけど、罪は罪や。あの子かて、じきに後悔する。今はああいうこと言うてても、お腹におった命をそう簡単に忘れられるもんちゃう。その間だけでも母親やったんやから」
「…そう願いたいものです」
「なんや、飲まへんのか、コーヒー」
「いえ、いただきます」
あまりの暑さで、すでに缶コーヒーは水滴がまとわりついている。
達也は思う。
もしかしたら自分は無意識のうちに博子にプレッシャーを与えていたのではないか。
まだ早い、そう言われながら、生まれてくる子にとおもちゃや服を買って帰った。
彼女には重荷だったのだろうか。
流産してしまったことは、もちろん博子のせいではない。
しかし、博子は未だに自分を責めている。
小さな命を、せっかく授かった命を守れなかった、と。
だからあのアヒルのおもちゃを大事にまだ飾っているのだ。
まるで免罪符のように。
取調べ中に命を命とも思わない、信じられない言葉が次々と飛び出してくる、そんなことはよくあることだ。
しかし、今の彼にとってこの彼女の言葉は辛すぎる。
「聴取の最中に取り乱してしまって、申し訳ありません」
達也が頭を下げると、桜井が笑いながら手を振った。
「気にすんな。わしも昔はおまえみたいに、よぅ取調べで怒鳴りよったわ」
そう言うと、自動販売機で缶コーヒーを2本買う。
そのうちの一本を達也に渡すと、諭すように言った。
「おまえがあの子に腹立つのはよぅわかる。せやけど、あの子も母親になるっていうプレッシャーがあったんちゃうかな?実家も遠いみたいやし」
桜井は缶コーヒーを一口飲みながら続ける。
「女っちゅう生き物は妊娠した瞬間に、ものすごい責任を感じるもんやって別れた嫁さんが言いよったわ。食事や運動に気を遣うて、元気な子を産まなあかん、産んだら産んだで立派な母親にならなあかんって。日に日に大きくなる腹を見とって、我が子に会えるっちゅう楽しみがある反面、気持ちばっかり焦ってまうんやろな。あの子はまだ若いし、頼る親もおらへん。
子どもの父親も逃げてもた。
それやのに、自分の中に一つの命が宿ってる。途方に暮れてもたんやろう」
達也はまだ冷たい缶コーヒーを見つめた。
「せやけど、罪は罪や。あの子かて、じきに後悔する。今はああいうこと言うてても、お腹におった命をそう簡単に忘れられるもんちゃう。その間だけでも母親やったんやから」
「…そう願いたいものです」
「なんや、飲まへんのか、コーヒー」
「いえ、いただきます」
あまりの暑さで、すでに缶コーヒーは水滴がまとわりついている。
達也は思う。
もしかしたら自分は無意識のうちに博子にプレッシャーを与えていたのではないか。
まだ早い、そう言われながら、生まれてくる子にとおもちゃや服を買って帰った。
彼女には重荷だったのだろうか。
流産してしまったことは、もちろん博子のせいではない。
しかし、博子は未だに自分を責めている。
小さな命を、せっかく授かった命を守れなかった、と。
だからあのアヒルのおもちゃを大事にまだ飾っているのだ。
まるで免罪符のように。


