「橘さんと坂井さんでしたよね。なんだかこうやってるとちっともそちらの世界の人に思えないですね」
博子はチラリと浩介に目をやると、つられて直人も隣を見る。
「いや、これ、一応俺の普段着なんすけど。これはやっぱ、ヤクザっぽい?」
浩介はオレンジのアロハシャツを、照れた顔でつまんでみせた。
「加瀬さんがそう思われるのは、きっと俺たちが亮二さんの下にいるからですよ」
直人は照れたように、前髪をかきあげた。
彼の言わんとすることが、博子には何となくわかる。
すかさず浩介が身を乗り出して言った。
「でも、それなりの悪いことしてますよ。旦那さんには内緒っすよ。パクられたら、たまんねぇから」
「やだ、もう…」
彼らの手のつけられていないアイスコーヒーのグラスが、汗をびっしょりかいていた。
息をきらして、土手を駆け上がった。
あたりはいつもと同じオレンジ色の光で包まれている。
「いた…」
あのベンチには男が一人。
博子は肩で息をしながら、生い茂った青い草を踏みしめて歩く。
「今日の花火大会、8時からよ」
煙草を吸う彼の後ろ姿にそう話しかけた。
随分遅れて
「…ご親切にどうも」という返事が返ってくる。
彼は火のついた煙草を飲み干した缶ビールの中に突っ込んだ。
「今日、お父さんの命日…」
「何しに来た!また騙されたいのかよ」
博子の言葉を遮って、彼は冷たく言い放った。
<もう、いいのよ、お芝居はなしにしましょ>
彼女は、ゆっくりと亮二の前に回り込んだ。
決して彼は目を合わせようとしない。
「さっきね、橘さんと、坂井さんという人が私に会いに来たの」
「……」
チッという小さな舌打ちが聞こえた。
「新明くん。あなたのことを誤解しないでくれって」
亮二はもう一度舌打ちして、暗くなりかけた空を仰いだ。
諦めたような、そんな表情だった。
博子はチラリと浩介に目をやると、つられて直人も隣を見る。
「いや、これ、一応俺の普段着なんすけど。これはやっぱ、ヤクザっぽい?」
浩介はオレンジのアロハシャツを、照れた顔でつまんでみせた。
「加瀬さんがそう思われるのは、きっと俺たちが亮二さんの下にいるからですよ」
直人は照れたように、前髪をかきあげた。
彼の言わんとすることが、博子には何となくわかる。
すかさず浩介が身を乗り出して言った。
「でも、それなりの悪いことしてますよ。旦那さんには内緒っすよ。パクられたら、たまんねぇから」
「やだ、もう…」
彼らの手のつけられていないアイスコーヒーのグラスが、汗をびっしょりかいていた。
息をきらして、土手を駆け上がった。
あたりはいつもと同じオレンジ色の光で包まれている。
「いた…」
あのベンチには男が一人。
博子は肩で息をしながら、生い茂った青い草を踏みしめて歩く。
「今日の花火大会、8時からよ」
煙草を吸う彼の後ろ姿にそう話しかけた。
随分遅れて
「…ご親切にどうも」という返事が返ってくる。
彼は火のついた煙草を飲み干した缶ビールの中に突っ込んだ。
「今日、お父さんの命日…」
「何しに来た!また騙されたいのかよ」
博子の言葉を遮って、彼は冷たく言い放った。
<もう、いいのよ、お芝居はなしにしましょ>
彼女は、ゆっくりと亮二の前に回り込んだ。
決して彼は目を合わせようとしない。
「さっきね、橘さんと、坂井さんという人が私に会いに来たの」
「……」
チッという小さな舌打ちが聞こえた。
「新明くん。あなたのことを誤解しないでくれって」
亮二はもう一度舌打ちして、暗くなりかけた空を仰いだ。
諦めたような、そんな表情だった。


