「あなた方の世界から見ると、俺たちの世界は悪でしかないと思います。だけど、仲間を思う気持ちは変わらないんです。
むしろこちらの世界の方が強いくらいです。
この人と決めたら、全力で守るんです、どんなことがあっても…命を投げ出しても…。
俺たちはそのくらいの覚悟であの人についてきました。それに値する人だと、思ってますから」
直人の言葉を聞き終えると、浩介が喫茶店の板張りの天井を仰いだ。
貝のモビールが空調の風で重そうに揺れては、カシャカシャと身を寄せ合う。
それを目で追いながら、彼は呟くように言った。
「亮二さんがあんたを想う気持ちに、ヤクザもカタギもねぇんだよ。あんただってそうじゃねぇのかよ。あの人と会ってるとき、ヤクザだってこと忘れなかったか?」
「……」
「な?忘れてただろ?人を好きになるのに、肩書きなんても関係ねぇんだよ」
その言葉が不思議なくらいに、博子の心にすっと入り込んでくる。
「…ふふっ、まさかこんな形でお説教されるなんて思ってもみませんでした」
頬の涙を指で拭いながら、博子は彼らの前で初めて笑った。
「…ありがとうございます」
その笑顔を目の当たりにして、亮二がなぜこの女に心を寄せるのか、彼らは今やっとわかった気がした。
「いえ、お礼なんて、なぁ、浩介」
「お、おう」


