はぐれ雲。

中学生の夏休み。

剣道部員で花火大会に行こうという話になった。

夏の一大イベントなので、かなりの人手になることは覚悟していた。

しかし、亮二は時間になっても待ち合わせ場所に来ない。

仕方なく彼抜きで、部員たちは花火大会が行われる海岸に向かった。

夜空に上がる、赤、青、黄色、緑…様々な光と、その後に続く腹に響く音。光の華が開くたびに、会場全体から歓声があがった。


一時間にも及ぶ夜空の祭典が終わると、その余韻など全く感じさせない人の大移動が始まる。

みんな押し合うように帰路につく。

博子たちもはぐれないように気をつけながら、来た道を戻った。


「結局、新明先輩、来なかったね」と、真梨子。

<一緒に花火見たかったな>

そんな博子の思いを察してか、

「今度は部員だけの花火大会しようよ。打ち上げ花火とか買ってきて、ね?」と励ますように言ってくれた。



真梨子と別れると、博子は自転車で土手の下の道を走った。

カラカラカラカラ…と自転車の車輪が回る音があたりに響く。

先ほどの人混みが嘘のような、静まり返った夜道。

ふと見上げると、土手の上に亮二のらしき自転車が置いてある。

静けさを切り裂くような急ブレーキをかけて、彼女は自転車を飛び降り、急いで土手にあがった。


土手に阻まれていた川面からの風を感じると同時に、テニスコート脇のベンチに一人で座る亮二の姿が目に飛び込んできた。

いつもはシャンとした背中が、今日に限っては小さく丸い。

そう、うなだれるようにうつむいて…


彼女はそっと彼に近づき、

「何してるの?今日みんな待ってたんだよ?」

驚かせないように、優しく静かに声をかけた。


返事はない。

その様子に、あることが頭をよぎった。

<ああ、そうだった。今日は新明くんのお父さんの命日だったっけ。花火大会だからって、はしゃいでる場合じゃなかったな…>


ひとりにしてあげるべきだった、そう思って引き返そうとした時だった。