はぐれ雲。


「あ~!」

浩介が座った姿勢のままで、伸びをした。

「もういいじゃねえか、直人。ここまで言っても無理なんだからよぉ。行こうぜ」

面倒臭そうに言うと、浩介は立ち上がり直人を促す。

「あの、もう一つだけ。
以前、亮二さんにお守り袋というか、小さな巾着をあげたことはありませんか?」

そして、これくらいの、と親指と人差し指で直人は小さな丸を作ってみせた。

「え…」

博子は目を大きくして彼を見た。

明らかに覚えのある反応だった。


直人は身を乗り出して、

「亮二さん、今でも持っています」そう告げた。



博子は震える手で口を覆った。

「そんな…」

「大切に、今でも持っていますよ」


それだけ言うと、目の前の男たちは立ち上がった。

「お忙しいところ、すみませんでした」

彼らは深々と頭を下げる。

「…待って」


「え?」


「待ってください」