「浩介、やめろよ」

直人がたしなめた。

「いいだろ、言わせろよ。
なぁ、なんでそう言ったんだよ?
亮二さんをずっと想ってたからだろ?
どんな男か知ってたからだろ?
何で最後まで、亮二さんに対する自分の気持ちを信じてやらねぇんだよ」

「だって彼ははっきりと…」

「あんたのために、ああいうことを言う人だってわかんねぇのかよ」

浩介のその言葉に、博子は下唇を噛んだ。

もう何が本当の彼かわからなくなっていた。


見かねた直人が穏やかに言う。

「加瀬さん、亮二さんは確かに上からの指示であなたに会っていました。でも、組の思惑にあなたを利用することを一人で悩んでいたようです。そしてあなたを遠ざけようと、心にもないことを言った…俺たちはそう思います」

「嘘です、そんな」

苦しそうな顔でしきりに首を横に振る。

彼は自分を「騙した」と言った。

それを彼女は受け入れようとしていたのに、目の前の二人は、そうじゃない、と言い切る。
「あなたのためについた嘘」とまで言う。



「亮二さんは今とても苦しんでいます」

「もうやめてください!」

博子は再び首を横に振った。

「騙した」のなら、このまま死ぬまでそう思わせてほしかった。

その方がどれだけ、楽なことか…