新明亮二は、圭条会大幹部の林哲郎の前で頭をずっと下げたままだった。
話の一部始終を聞いた林は、黙ったまま煙草を何本か吸った。
彼の言葉を、亮二はじっと待つ。
随分時間が経った。
浩介と直人も後ろに控えているが、二人とも神妙な面持ちだ。
「そうか、失敗したか。亮二、おまえがなぁ」
ふいに林が言った。
「申し訳ありません」
吸いかけの煙草を灰皿に押し付けると、林はソファーから立ち上がった。
頭を下げたままの亮二に近づく。
「顔、あげろよ」
そう言うと彼の顎を持ち上げ、まじまじと顔を見る。
その林の手に力が入った。
「聞くところじゃ、その女にえらく手こずってたという話じゃねぇか。その上、女には逃げられたって言うのかよ」
「申し訳ありません。俺のミスです」
「林さん、違うんです。それは邪魔が入って」
浩介がたまらず口をはさんだ。
「黙ってろ、浩介」
「でも、亮二さん」
「黙ってろっつってんだよ!」
亮二が怒鳴ると、浩介は納得のいかない顔をして下がった。
「言い訳はしないのか」
「言い訳も何も、完全に俺のミスです」
亮二は林の目を真っ直ぐに見ると、ゆっくりと瞬きをした。
林は続ける。
「その女を抱かなかったのは、昔の知り合いを騙すのに気が引けたからか」
「それはありません」
「まさか惚れちまった、ってことはないだろうな」
「決して、ありません」
言いよどむことのない亮二の返答に、林は頷き彼の顔から手を離した。
「百戦錬磨のおまえでも、堕ちない女がいるんだな」
林はニタリと笑うと、亮二の頬をパンパンとたたいた。
「まぁいい。他で挽回しろ」


