はぐれ雲。

博子は苦しそうに、目を閉じる。

「あんたは、ただ利用されただけ。それも役に立たなかった。」

追い討ちをかけるような言葉が放たれた。

<嘘、そんなの絶対嘘。私を利用しようとしてたなんて…>


「…新明くんは、そんな人じゃない…」

消え入りそうな声だった。

女の顔がピクリと動く。

「何ですって?」

「彼はそんな人じゃない」

「しつこいわね、それが現実なのよ。認めなさいよ!あんたは亮二のこと何も知らないんだって!」

「いいえ!新明くんはそんなことするような人じゃない!」

博子は叫んだ。

その声が店内に響き渡る。

女の顔が一瞬青くなったかと思うと、みるみるうちに赤くなった。

「うるさいっ!」

女は大またで博子に近寄ると、手を振り上げた。


次の瞬間、博子の頬に電流が走ったような痛みが走る。

頭がクラクラして、彼女は膝をついた。

「生意気な女!」

声を荒げた女がものすごい形相で睨む。


レンはどうしていいのかわからず、おろおろしたまま隅で控えている。


博子はもう一度女を見上げると睨んだ。

「何?その目は」

それからもう一度言った。

ゆっくりと、そしてきっぱりと。

「彼は絶対に、そんなことしない」

「なんなのよ、あんた!」

そう叫ぶと、女は再び手を振り上げた。



「そこまでにしろよ」

張り詰めた空気が一瞬で消え去る。

二人が目をやった先に、当の新明亮二が立っていた。

「よぉ、おそろいで。俺の取り合いかよ。まいったな、俺もすみにおけねぇな」

彼は笑いながら、いつものように右手をあげた。蝶が舞うように。

同時に、彼は隠れるように物陰に立っていたレンを睨む。

「…あわ…」
怯えたようにレンは顔を伏せた。