「亮二のこと、どういうつもり?」
「どういうつもりって…」
「しらばっくれないで。今日はそのことで来てもらったのよ。あたしの言う通りにしたら、すぐに返してあげるわよ」
女はレンを意味ありげな目でチラリと見た。
「あんたのこと調べたの。亮二と同じ中学校だったんでしょ。彼が好きだったの?初恋?」
馬鹿にしたよう言う。
「再会して、また亮二のこと気になっちゃたわけ?初恋ってそんなもんよね。忘れたくても、忘れられない。ずっといい思い出になって、心の片隅に残ってる」
「何が言いたいんですか」
女が声を出して笑った。
「初恋の相手も、自分と同じようにいい思い出として覚えてるって思ってた?残念でした。
他の男がどうであれ、亮二は過去にはとらわれない男なのよ。あんたに会っても、彼はあたしにぞっこん。あんたのことなんて、何とも思ってないわよ。それにしても旦那もいるのに、よく平気な顔して彼に会えるわね。おとなしそうな顔しちゃって、裏では何やってるかわかんないもんね」
誇らしげに自分の店を見回しながら、女はヒールをコツコツと鳴らしながら歩き回る。
じっと唇をかみ締めて女の話を聞いていた博子が、口を開いた。
「あなたの言ったことに対して、何も言い訳しないわ。私に夫がいることも、新明くんが初恋の相手で、そして今会ってることも事実だから」
「なんですって」
片眉がぴくりとつり上がる。
「だけど、私と新明くんはあなたが思ってるような関係じゃない。ただの先輩、後輩の間柄よ。誤解させてたなら、謝るわ」
博子の言葉が女の感情を逆撫でした。
気に食わなかった。
口を開いたかと思うと、悪びれた様子もなく開き直ったようなことを言う。
加瀬博子をとことん苦しめてやりたい、そう彼女は思った。
女と言う生き物はそうだ。
憎い相手には、とことんその憎しみをぶつける。
愛情が絡んでくると、なおさらだ。


