はぐれ雲。



晴天が続き、梅雨もそろそろ明けるだろうと思われた、ある日のことだった。

昼を過ぎると、外に出るのが面倒なくらいの痛い日差し。

博子は暑さを避けるように、午前中に買い物に出かけた。

幸いにも、最近は朝早くから営業している店も多い。

「暑…」
眩しい太陽に目を細めながら、彼女は呟く。

スーパーの駐車場を横切った時だった。

「加瀬博子さんですよね」と突然見知らぬ男に声をかけられた。

不審な目でその男を見ると、思いもかけずさわやかな笑顔が返ってくる。

男は城田と名乗った。

「今、亮二さんの下で働いてるんです。本当はご自宅にうかがいたかったんですが、俺みたいなのがうろうろしてたらご迷惑かと思って。ここのスーパー、よく来るって亮二さんに話されてたみたいなんで、ここで待たせてもらいました」

「え、えぇ」

確かに亮二にそんな話をした気がする。

「実は亮二さんが、会って話がしたいと…」

博子は顔をこわばらせた。

「会っても、私にはお話することはありませんので」

軽く頭を下げると、彼の前を通り過ぎようとした。

「待ってください!会って直接謝りたいって、失礼なことをして傷付けてしまったって、そう亮二さんが…」

彼女の意に反して、足が勝手に止まる。

「加瀬さんに来ていただかないと、俺…」とその若い男は弱り果てた顔で見てくる。

この目の前の男が、少し気の毒にも思う。だけど…

気持ちが揺れに揺れる。

彼は、亮二は謝りたいと言っている。

会っていいものか。

しかし、真梨子の言葉が気になっていた。

もう亮二は『男』、あの時の少年ではないのだ。

会ってこの前と同じことにはならないだろうか。


「あの、新明くんの気持ちはよくわかりました。もう、気にはしてませんので、とお伝えください」

「一緒に来ていただけませんか」

城田という男は、もう一度懇願するように言った。

「申し訳ないけれど、それはちょっと…」

博子は頭を下げると、一度は止めた一歩を踏み出した。