はぐれ雲。

真梨子がカップをテーブルに置くと、

「それは博子がおかしいって」そう言って笑う。

「どうして?」

博子は身を乗り出した。

「なんでって、あんたねぇ。もう私たち30よ?いい大人なの。その大人の男と女が何回も会うってなると、そういう関係に発展していくのは自然の成り行きじゃない。高校生でもわかるわよ、そんなこと。むしろそうならないほうが不・思・議!」

博子は口を尖らせた。

先日の亮二との一件を電話で話したところ、早速自宅にまで足を運んでくれたのだ。。

「でも今までそんな雰囲気になったことなんて、一度もなかったのよ。それなのに突然…」

真梨子は呆れたように笑う。

「博子って、しっかり者なのかなぁと思う反面、恋愛の類はさっぱりだめね。まさに異次元。
あんたの恋は中学で止まったままね」

そうかもしれない、と思った。

「あんたたちは、お互いもう大人の男と女なのよ。中学生の恋じゃないんだから」

<そう、彼への気持ちはあの時のまま。会えるだけでいい、それ以上望まない、望めない>

「だいたいさ、中学の時に新明先輩とキスとかした?」

博子は顔を赤らめて、首を横に振った。

「え!うそ」

「だって、付き合おうって言われたこともなかったし、私も言わなかったから。だから、付き合ってたのかって言われると、ちょっとわからない」

「誰がどうみても、付き合ってるとしか思えなかったけど。新明先輩も新明先輩よね。中途半端すぎるよね」

真梨子は大きなため息をつき、官舎の低い天井を見つめる。

「ま、そんな関係で突然彼がいなくなったら、あんたの気持ちも納得できないよね。それを考えると、今になって博子の会いたいって思う気持ちもわかるよ、うん、わかる」

博子はカップを両手で包んだ。