はぐれ雲。

「いい度胸してるよね、その女も。外では亮二に会って、家に帰れば旦那に抱かれて。ちゃっかりやることはやってるんだもんね」

彼の反応をうかがう。

相変わらず無表情のまま、動揺の陰すら見せない。

バカらしくなって、リサは面白くなさそうにベッドに腰掛けた。

「ねぇ亮二。あたしたち、いつになったら一緒に暮らせるの?」

ふてくされたようにリサは問う。

「焦んなよ」

「いっつもそう言ってばっかりじゃない」

亮二は上着を着ると、靴を履いた。

「じゃあな」

いつもこうだ、肝心な話になると彼は逃げるように立ち去る。


リサの夢。

亮二を完全に自分のものにすること。
結婚という名のもとに。

ドアが閉まると、リサは近くにあったクッションを投げつけた。

今夜の雨の中の亮二。

あんな彼は見たことがなかった。

高架下で一人で立ち尽くす彼の切ない顔。

あの亮二が、まるでびしょ濡れの捨てられた子犬のように見えた。

そんな顔をする彼がいるなんて知らなかった。

今までずっと一緒にいたのに。

悔しかった。

自分の知らない新明亮二を、他の女は知っている。

許せなかった。

「何なのよ、あの女!」

リサは胸元のネックレスをひきちぎると、床にたたきつけた。

薄暗い部屋の中でも、そのダイヤは穢れない光を放ち続けていた。


彼女は携帯を取り出す。

「もしもし、あたし。調べて欲しいことがあるの」


亮二はリサのマンションを出ると、浩介に電話をかけた。
眠そうな声が返ってくる。

「バイク貸せ」

午前4時の高速道路は大型トラックがほとんどだ。その間をぬうようにして亮二は猛スピードでバイクを走らせる。
刺すような風が痛い。


どうしても彼の頭から離れないことがあった。

それは、暗闇の中白い肌をあらわにした博子が、自分の知らない男の胸に抱かれている様子。

あがいても仕方のないことだとわかっている。

わかっているが、この焦げ付くような思いから逃げ出したかった。

亮二はさらにスピードをあげ、風となる。